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第165回 フリーランス・事業者間取引適正化等法

 令和6年11月1日に、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法。以下「本法」といいます)が施行されました。本コラムでは、本法の概要についてご説明します。

 

1 対象となる事業者
 (1) フリーランス
   本法では、いわゆるフリーランスのうち保護対象となる方を「特定受託事業者」といい、
  業務委託の相手方であって、①個人のうち従業員を使用しないもの、または、②法人のう
  ち、一人の代表者以外に役員がなく、従業員を使用しないものと定義しています。そのた
  め、本法では一般的にフリーランスと呼ばれる方でも保護対象にならないことがあります。
   一方で、会社勤めをしている方が副業で行う場合でも、上記基準を満たせば特定受託事業
  者に該当する可能性があります。
   本コラムでは、以下、特定受託事業者をフリーランスということがあります。

 (2) 発注事業者
   本法では、発注事業者を「特定業務委託事業者」と「業務委託事業者」といっています。
   「特定業務委託事業者」は、フリーランスに業務委託する事業者であって、①個人のうち
  従業員を使用するもの、または、②法人のうち、二人以上の役員がいる、もしくは、従業員
  を使用するものと定義されます。
   「業務委託事業者」は、単にフリーランスに業務委託する事業者と定義されます。従業員
  を使用する等の要件がなく、フリーランスに業務委託するフリーランスも含まれます。
   本コラムでは、以下、特定業務委託事業者、業務委託事業者を併せて発注事業者というこ
  とがあります。

 (3) 「従業員を使用」
   上記の「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、継続
  して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいいます。労働者派遣
  の派遣先として、上記基準に該当する派遣労働者を受け入れる場合も該当します。そのため
  短時間・短期間等の一時的に雇用される労働者を雇用することは、「従業員を使用」に含ま
  れません。
   事業に同居親族のみを使用している場合も「従業員を使用」に該当しません。
   業務委託をする時点で従業員の使用等の確認をすることになりますが、トラブル防止の観
  点から電子メールやSNSのメッセージ等を用いて確認し証拠化することが考えられます。
 

2 対象となる取引
 (1) 対象となる取引・ならない取引
   事業者から事業者への委託であり、BtoBが対象になります。消費者からの委託は対
  象になりません。
   フリーランスが不特定多数の消費者・事業者に売買する場合も対象になりません。
   形式的に業務委託契約を締結している者であっても実質的に労働基準法上の労働者と判
  断される場合には、労働基準関係法令が適用され、本法は適用されません。

 (2) 対象になる取引の内容
   本法の対象となる「業務委託」とは、以下の通りです。
   ① 製品の製造・加工委託
     規格、品質、デザイン等を指定して、物品の製造・加工等を委託することをいいま
    す。
   ② 情報成果物の作成委託
     ソフトウェア、映像コンテンツ、デザイン等の作成を委託することをいいます。
   ③ 役務の提供委託
     運送、コンサルタント、営業、演奏、セラピー等の役務提供を委託することをいい
    ます。
   下請法とは異なり、建設工事や、発注事業者自ら用いる役務の委託も対象になります。
 

3 発注事業者の義務の内容
 ① 書面等による取引条件の明示
   業務委託をした場合、書面等により、直ちに、
  ・業務の内容
  ・報酬の額
  ・支払期日
  ・発注事業者・フリーランスの名称
  ・業務委託をした日
  ・給付を受領/役務提供を受ける日
  ・給付を受領/役務提供を受ける場所
  ・(検査を行う場合)検査完了日
  ・(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項
  という取引条件を明示する必要があります。
   明示する方法は、発注事業者の選択により書面か電磁的方法(電子メール、SNSのメッ
  セージ等)が認められ、口頭では認められません。SNSを利用する場合、スクリーンショ
  ット等で証拠化しておくとよいでしょう。
 
 ② 報酬支払期日の設定・期日内の支払
   発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日
  を設定し、期日内に報酬を支払う必要があります。
   ただし、再委託の場合(元委託者が発注事業者に委託し、発注事業者がフリーランスに再
  委託する場合)で、通常明示すべき事項に加えて、
  ・再委託である旨
  ・元委託者の名称
  ・元委託業務の対価の支払期日
  を明示したときは、フリーランスへの報酬の支払期日を、元委託支払期日から起算して30
  日以内のできる限り短い期間内で定めることができます。
 
 ③ 禁止行為
   フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、
  ・受領拒否
  ・報酬の減額
  ・返品
  ・買いたたき
  ・購入・利用強制
  ・不当な経済上の利益の提供要請
  ・不当な給付内容の変更・やり直し
  をしてはなりません。
 
 ④ 募集情報の的確表示
   広告等にフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、虚偽の表示や誤解を与える表
  示をしてはなりません。また、内容を正確かつ最新のものに保たなければなりません。
 
 ⑤ 育児介護等と業務の両立に対する配慮
   6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護等と業務を両立できるよう、
  フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
 
 ⑥ ハラスメント対策に係る体制整備
   ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発、相談や苦情に応
  じ、適切に対応するために必要な体制の整備、ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
  等の措置を講じなければなりません。
 
 ⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示
   6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則とし
  て30日前までに予告しなければならず、予告の日から解除日までにフリーランスから理由
  の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければなりません。
 

4 発注事業者が満たす要件ごとに負う義務の内容
  以下の通り、発注事業者が満たす要件ごとに、フリーランスに対して負う義務の内容が異な
 ります。
 ① 特定業務委託事業者以外の業務委託事業者
   特定業務委託事業者以外の業務委託事業者(つまり従業員の使用等していない場合をいい
  ます。フリーランスに業務委託するフリーランスも含まれます)は、上記3の①が義務とな
  ります。
 
 ② 特定業務委託事業者のうち下記③以外の場合
   上記3の①②④⑥が義務となります。
 
 ③ 特定業務委託事業者のうち一定期間以上業務委託する場合
   一定期間とは、上記3の③は1か月、⑤⑦は6か月です。
   この場合、上記3の①~⑦のすべてが義務となります。
 

以上