コラム

Column

第27回 弁護士報酬について

1 ラジオ出演

先日、ラジオに出演する機会がありました。

アナウンサーの質問に答えていくのですが、証人尋問に臨む証人の心境がよくわかりました。テーマは「弁護士の報酬」に関するもので、以下にあらためて整理してみました。

 

2 「弁護士報酬」についてよくある誤解

「弁護士報酬」と聞くと、「いくら請求されるのかわからない、全品『時価』のお寿司屋さんのようだ」と言われることがあります。

しかし、少なくとも近時は、「回転寿司」とまではいかなくても、明朗会計化が大きく進んでいます。

 

3 報酬の自由化

(1)今、弁護士の報酬は、弁護士と依頼者の方が相談して「自由に」決めることに
なっています。一見当たり前のことのようですが、10年前まではそうではありま
せんでした。「報酬の基準」を(個々の弁護士ではなく)弁護士会が示してお
り、また、そうすることが法律で義務づけられていたからです。これは、弁護士
と依頼者との間の「利益相反」を回避し、弁護士の自由・独立を確保する、とい
う考えによるものです。

しかし今はそのような会の基準はなくなり、「弁護士と依頼者の方との間で、
どうぞ自由に決めてください。」ということになっています。ただ、これは、い
わば「標準価格」がなくなったということであり、かえって分かりにくくなった
面もあります。実際、「自由に」と言われても、相場がわからないと、どう交渉
してよいのかわからないのではないかと思います。そこで、日弁連は、弁護士の
報酬の実態についてのアンケート結果を公表し、一応の「目安」を提供していま
す。 ☞ www.nichibenren.or.jp

 

(2)また、「プロ」である弁護士には、自らの報酬について説明責任があります。
具体的には、日弁連により、以下のような弁護士の義務が定められています
(「弁護士職務基本規程」・「弁護士の報酬に関する規程」)。

① 自らの報酬の基準を作成し、事務所に備え置く義務

② 報酬・費用について説明する義務

③ 経済的利益、事案の難易、時間および労力その他の事情に照らして適正かつ妥

当な金額を提示する義務

④ 報酬に関する事項を含む委任契約書を作成する義務(例外があります。)

⑤ 報酬見積書の作成および交付に努める義務

なお、当事務所も、「色川法律事務所報酬規程」を作成して各相談室に備え置
いており、ご要望に応じ交付しています。また、個々の弁護士もできるだけ丁寧
な説明を心掛けていますが、ご不明点等がございましたら遠慮なく担当弁護士に
お問い合わせください。

 

4 一般的な予備知識

次に、弁護士報酬に関する一般的な予備知識についてご説明します。

(1)弁護士にお支払いいただくお金には、大きく次の2つがあります。

① 「費用」(実費)

☞ 裁判所の予納費用(印紙・郵券・鑑定費用等)・交通費など

② 「弁護士報酬」

☞ 次に詳述します。

(2)「弁護士報酬」にはいろいろな方式があります。

ア 最も一般的なのは、「着手金」・「成功報酬」の2本立て方式です。

(ア)着手金

着手金は、「今からあなたの代理人として動きます。」という段階でお支払いいただくものです。成功・不成功にかかわらずお支払いただく一種の「ファイトマネー」です。これはいわゆる「手付金」ではなく、また、とくに合意しない限り、成功報酬に充当されるものではありません。

(イ)成功報酬

「成功」報酬ですから、成功しなければ発生しません。ただ、何をもって「成功」とみるかは一義的に明確とはいえません。例えば、100万の貸金の返還を求める裁判の「成功」とはなんでしょうか?

ⅰ)100万円の勝訴判決を貰った場合

判決の言渡段階で発生するのでしょうか、控訴されることなく確定して初めて発生するのでしょうか?判決は得たにもかかわらず任意に返済されず、さらに強制執行の手続が必要な場合は、別途、着手金や報酬を要するのでしょうか?

ⅱ)50万で和解することになった場合

100万貸したのだからそもそも50万では「成功」していないのでしょうか、50万の限度では「成功」したとみるのでしょうか?

以上のように、ごく単純なケースでみても自明でないことがおわかりいただけると思います。

一般には、ⅰ)判決確定の段階で発生し、強制執行を要する場合は別費用、ⅱ)50万円の限度で成功とみて報酬を計算、ということになりますが、当事者間でこれと異なる合意をすることはもちろん可能です。

事件等の委任にあたっては、事件の処理方針だけでなく、これらの点も含めて、弁護士とよく協議していただく必要があります。

イ 「着手金・報酬」方式以外にも、最近は様々な方式が現れてきています。

(ア)「タイム・チャージ」方式

「1時間○万円」という、時間単価方式です。

欧米では一般的ですが、我が国では、弁護士は「プロの職人」という意識が強く、この方式はとらないという人もいます。職人は、要した時間にかかわりなく、自分自身が真に納得できるまで仕事に取り組むものだからです。しかし、我が国でも、予算化が求められる企業や役所で次第に普及しつつあるようです。

(イ)「積算(積上げ)」方式

「訴状作成○万円」「出廷1回につき○万円」というように、成果物や出廷回
数を基準に単価にして積み上げていく方式です。

(ウ)「完全成功報酬」制

「着手金はいただきません。その代わり、勝てばその○割いただきます。」という方式です。訴訟社会アメリカでは、自動車メーカーに対する集団訴訟で原告を募る弁護士などもいるようですが、我が国では、「訴訟を投機的にする」「弁護士が当事者化してしまう」等の理由から、あまり一般的ではありません。しかし、資力の乏しい被害者に被害回復の機会を保障するという積極的な意義もあり、最近、過払金返還請求などでみられるようになってきました。

(2)報酬に関してご注意いただきたいこと

以上を踏まえ、報酬に関してご注意いただきたい点は次のとおりです。

ア 依頼にあたっては、まず、どの方式でいくか、「メニュー」を示してもらうこ

とです。

上述した方式はいずれも一長一短があり、どれが正解かは事案によって一概にいえません。事案の特性もありますので、弁護士に尋ね、自分でも納得して決めることが大切です。

イ 一旦契約をしたあとで「あれでよかったのか?」と不安に思うこともあると思
います。そんなときは、遠慮なく弁護士に説明を求めてください。

説明は「弁護士の義務」であり、「依頼者の権利」です。ただ、直接にはなか
なか訊きにくいかもしれません。その場合は、他の弁護士に「相見積もり」をと
ることも可能ですし(一種の「セカンド・オピニオン」)、知り合いに弁護士が
いなければ、弁護士会の「市民窓口相談」を利用するという方法もあります(無
料)。

ウ 弁護士は依頼者の方に「安心」と「納得」を売る職業です。悩み事を相談して
却って不安が増えた、ということのないよう、不明点はなんでも遠慮なくお尋ね
ください。弁護士の側も質問いただくことによって、依頼者の方が何に不安を覚
えているのかがわかり、より適切な対応をとることが可能となります。

弁護士と依頼者との関係は様々です。私が一番理想的だと思うのは、弁護士と
依頼者の方がお互いに個人として尊重しあえる関係です。一人でも多くの方と、
そんな関係が築けることを祈念しています。

5 なお、冒頭のラジオ番組は以下のHPで試聴可能です(第55回放送分で

す。)。興味のある方はご試聴いただければ幸いです。

☞ http://www.mbs1179.com/hona_p/

以上