コラム
Column
Column
民法改正の重要トピックスを解説するシリーズの4回目です。「定型約款に関する改正点と実務対応」の後半です。
4.定型約款は、どのような場合に変更することができるのか
いったん相手方との間で成立した「定型約款」についても、それが継続的な取引に係るときには、その後に内容を変更する必要が生じてきます。民法の原則によれば、契約内容を変更しようとする場合には、相手方との合意が必要です。
しかしながら、「定型約款」を締結した全ての相手方との間で、逐一、合意を得なければならないとすると実務上極めて煩雑である上、合意しない相手方との間では「定型約款」を変更できないことになります。
そこで新法では、定型約款を準備した事業者が、相手方との合意を得ないで、定型約款を変更することができる要件を定めています。
(1) 要件
以下のいずれかの要件を満たす場合には、定型約款を、相手方との合意がなくても内容を変更することができます(新法548条の4第1項)。
(イ) 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
(ロ) 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容
の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及
びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
(2) 定型約款を変更するために、どのような条項を置き、どのような手続を経て変更するのか(③-1)
(イ) 定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するとき、例えば、これまでは相手方
が「取引を終了しようとするときには2ヶ月前までに申し出なければならない」と定めて
いたのを、「1週間前までに申し出なければならない」と変更するような場合が考えられ
ます。このような変更に関しては、定型約款の中に「約款を変更することがある旨」の定
めがなくても、また変更までに予告期間を置かずに変更したとしても、有効なものとして
取り扱われます。
一方で、定型約款の変更が「相手方の一般の利益に適合する」とは言えない場合には、
(ロ)の要件を満たさなければ変更が認められませんので、予め定型約款に、変更に関す
る条項を置いておく等の対応が必要になります。どのような場合に有効になるかは、契約
目的、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更に関する条項の有無や内容など諸般の
事情に照らして総合的に判断されますので、変更に関する条項が予め置かれていることは
必須ではありませんが、変更が認められやすくなる事情ですので、定型約款を準備する事
業者としては、予め変更に関する条項は置いておくべきものと考えます。
どのような条項を置くかに関して、検討ポイントは以下のとおりです。
☑ 予告期間の有無、長さ
(ロ)の場合には、変更の効力発生までに一定の予告期間を置く必要があります(新
法548条の4第2項)。しかしながら前述の(イ)のケースであれば予告期間を置くこ
とは必須ではありませんし、(ロ)の場合に置くべき予告期間の長さも、相手方に不
利益を与える程度が大きければ(例えば、サービス料金を値上げするケースなど)、
取引終了等を検討する期間を相手方に与えるべく長い期間を置く必要がありますが、
相手方に与える不利益が小さければ予告期間は短くて足ります。
そのため「○日前に予告して・・・」と一律に定めることも適当ではないように思
われます。様々なケースがあることを想定し、「当社は、予告なく、又は一定の予告
期間を置いて本規約を変更することがあります。」というような条項とすることも一
案です。
☑ 変更する手続
変更内容を周知する方法なども予め記載しておくことにより、相手方は確認手段を
予め把握することができますので、変更が認められやすくなる事情の一つになりま
す。インターネットにより周知することが簡便かつ一般的と思われますので[1]、 「当社は、変更後の規約を当社ホームページ https://・・・・・・・に掲載します」といった条項を置くことが考えられます。
(3) 定型約款にあたらない文書を変更するために、どのような条項を置き、どのような手続を経て変更するのか(③-2)
③-1で述べたのは「定型約款」を変更する場合の条項ですが、それでは、「定型約款」には該当しない文書を変更するためには、どのような対策を講じれば良いでしょうか。新法が適用される前つまり旧法の下でも、一定の合理的な事情がある場合には約款変更の有効性が裁判例でも認められていました。
東京高等裁判所平成30年11月28日判決は、携帯電話の利用に係る通信サービスを提供する契約の約款変更について、以下のとおり判示しています。
・本件各契約の内容となっている約款については、本件変更条項の有無にかかわらず、
必要に応じて合理的な範囲において約款が変更されることは契約上予定されており、少
なくとも「当事者の個別の同意がなくても約款を変更できる場合がある」という限度で
は、約款法理は確立している。
・どのような場合に約款変更が認められるかは、諸々の見解があり、具体的場面に応じ
て個別に検討していくほかないが、現時点では、改正民法の定めが参考となり、契約の
目的変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款を変更することがある旨の定め
の有無等に照らして、合理的なものであるか否かを検討する必要がある。
この裁判例は、新法が成立して施行される前に出されたものですが、新法施行後において、「定型約款」には該当しない文書についても、変更の有効性については、新法の定型約款に関する条項(新法548条の4)が類推適用されることもあるのではないかと考えられています。
そうすると、「定型約款に明らかに該当する」とは言えない文書についても、将来的に変更する予定のある文書については、(個別の変更に関する合意を得なくても)変更が認められやすくなるように、新法の要件に倣って、変更に関する条項を予め置いておくなどの対応を講じておくことが望ましいと思われます。
5.終わりに
事業者が準備している文書には様々なものがありますが、その内容を踏まえて、変更に関する規定などを確認して改定するといった対応が必要となります。具体的な条項などで悩むことがありましたら、弊事務所にご相談いただければと思います。
以上
[1] 新法の条文も、「定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない」と定めています(新法548条の4第2項)。