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第141回 債権者破産申立てと免責(債務者としての留意点)

1 はじめに
債務者が破産手続開始の申立をしたときは,申立ての際に,反対の意思表示がなされない限り,同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法248条4項)。
このような規律は,平成16年に改正された現在の破産法によって採用されましたが,平成17年1月1日に施行されて以来現在まで約15年が経過し,破産免責の運用も定着しているように思われます。
改正前の旧破産法の時代には,免責許可決定を得るために,債務者は,破産宣告後に改めて免責許可の申立てを行う必要がありました。
そして,免責の申立ての時期については,破産手続の終了までは,いつでもできるものとされていました。ただし,手続が同時廃止となった場合には,破産手続開始(当時は破産宣告)決定確定後,1月以内に限り申立てができるものとされていました(旧破産法366条ノ2第1項)。
そこで,特に同時廃止で終了した事件について,債務者が免責申立期間を徒過し,免責の申立てができなくなることがありました。
実務上は,弁護士が債務者の代理人として関与することが多いので,申立期限を徒過した場合には,債務者の代理人弁護士が免責されるような特段の事情がなければ民事責任を負うことになるでしょう。また,場合によっては,依頼者である債務者から弁護士会に対して懲戒処分を求められる事態に発展する可能性もあります。弁護士には,職業人としてまた専門家として厳しい規律が求められているからです。
2 現在の破産法のもとでは
現在の破産法では,冒頭のとおり,自己破産の場合には,申立ての際に,反対の意思表示がなされない限り,免責の申立てがなされたものとみなされます。旧法と比較して,破産手続開始と免責許可申立ての一体性を高めており,自己破産の場合には,期間の徒過により免責の申立てができなくなるということは起こらなくなりました。
しかしながら,債権者から破産が申し立てられている事案においては,免責の申立てがなされたものとはみなされません(破産法248条4項)。そこで,債務者自らが破産手続開始決定確定日から1か月以内に免責申立てを行わなければならない(破産法248条1項)ことになります。そして,債務者がその破産原因や債権者の申立資格などを争っているうちに,注意を怠ると,免責申立期間を徒過してしまうことがあります。
そこで,以下では,債務者が免責申立期間を徒過した場合に,債務者として,どのような救済方法があるかをみていくこととします。
3 解決策その1 裁判所に「事情」を説明する。
債務者として考えられる対応としては,「その責めに帰することができない事由により同項に規定する期間内に免責許可の申立てができなかった」,として速やかに裁判所に免責の申立てをすることです。その事由が消滅したのち1月内に限り,当該申立てをすることができる(破産法248条2項)とされているから,これを根拠にする訳です。この場合には,そのような事由があるかどうかが問題になります。
この点については,免責許可申立の期間の制限は,政策的な目的で定められたものにすぎないので,比較的緩やかに解すべきであるとの見解もありますが,期限後の追完は安易に認めるべきではないとの見解もあります。
後者の立場からは,「その責めに帰することができない事由」とは,地震などの天災その他避けることができない事変という客観的に不能と評価される事由のほか,自らが裁判手続を追行するうえで通常用いることができると期待されている注意を尽くしても避けられない事由に限定されるものと解釈されています。
このように争いがありますので,債務者としては,「その責めに帰することができない事由」は,実務上は限られた場合と意識して対応する必要があります。
このような実務の運用を前提に考えると,免責を得たいと考える債務者としては,より実現可能と思われる他の方策を考えることになります。
4 解決策その2 実務運用の工夫で対処する方法
現在の破産手続の中で全債権者あるいは主要な債権者の同意を得て免責手続を進める考え方があります。
この考え方は,免責申立期間の徒過について,全債権者の同意があることで,いわば瑕疵が治癒されるとするものです。しかしながら,私が調査した限りでは,このような見解は公表されている文献には見当たりませんでした。
また債権者の一部が反対すれば,この見解によることはできません。したがって,実際の運用としては,この見解によることはできないものといえましょう。
5 解決策その3 再度の破産手続開始,免責許可の申立てをする。
そこで,債務者としては,免責を得るために改めて破産の申立てをするとともに免責の申立てをすることが考えられます。ここでは,再度の免責申立てができるかどうかが主要な論点になるのですが,免責の申立てをするためには,債務者が自己破産の申立をする必要があるため,これまでは,「同一の事由に基づく再度の破産申立てをした上で,免責申立てをすることが許されるか」という問題として議論されてきました。そこで,これまでの議論の内容を以下に簡単に紹介することにします。
なお,免責後7年以内に再度免責を申立てることは許されませんが(破産法252条1項10号),ここでの議論は,前の手続きで免責の申立てがなされなかった場合ですので,同条項は適用されません。
(1)消極的な見解
一つの考え方は,破産制度の趣旨からして,破産手続が終了したのち,同一の破産原
因で再度の破産申立てをすることは,破産手続を濫用するものとして許されないとする
ものです。
この考え方は,いったん完結した手続を,再度繰り返すことは認められないとするも
のです。
この見解によれば,再度の破産申立ては許されないことになります。したがって再度
の申立てが裁判所になされたとしても,裁判所はこれを認めることはできず,決定で却
下されることになると思われます。この見解は,端的に債務者が申し立てた免責の申立
てについて審理をせずに,破産手続の開始自体を許さないとするものです。
(2)積極的な見解
これに対して,再度の破産申立てを許可して,その手続において免責を審理できると
する考え方があります。
その主な理由は以下のとおりです。
第1に,再度の破産手続開始を制限する明文上の規定がないことです。
第2に,破産法254条第6項のように,再度の破産手続開始を前提とした規定があるこ
とです。
第3に,後の申立てにおいても破産原因が存在することは否定できないことです。
また,先の破産と後の破産とでは,破産財団や破産債権者の範囲が異なる可能性があ
ることも理由となりえます。ことに,1度目の破産手続の終了から長期間が経過したよ
うな場合は,再度破産手続により資産の保全,調査,清算を行うことが,債権者にとっ
ても有益な場合もありえるでしょう。
第4に,以上とは違う観点からの理由です。実際に個人の自己破産手続で利用されて
いる同時廃止と対比すれば,再度の破産申立ては認められるというものです。個人の自
己破産申立事件の多数は,同時廃止決定により終了しています。最高裁判所ホームペー
ジから検索できる平成30年度では,破産手続開始決定総数7万7539件のうち同時廃止
決定がなされたものは4万6486件で約60%とされています。
同時廃止の事件は,申立て当初から資産がないことが明らかにされ,実質的には免責
許可の申立てをすることのみを目的として申し立てられているといってよいといえま
す。実際にも破産管財人が選任されず,破産手続としてはほぼ何も行われないといって
も過言ではありません。このような破産の申立てが認められていることと対比すれば,
再度の破産申立てを許容することが相当であるというのです。
この積極説によれば,再度の破産申立てが認められ,免責の申立てについて審理が許
されることになります。そして,審理の結果,免責を不許可とする事由がなければ,免
責が認められることになります。
旧破産法時代の古い裁判例には(仙台高決平成元年6月20日判例タイムズ722号274
頁)前件の破産申立てと再度の破産申立てはいずれも債務者による自己破産申立てであ
った事案で,再度の申立てを認めなかったものがあります。
これに対して,比較的最近の裁判例(東京高決平成25年3月19日金融法務事情1973
号115頁)には,前の破産申立ては債権者申立てで,債務者が再度自己破産の申立てを
した事案で,再度の申立てを認めたものがありますので,実務上の対応の際に参考にな
ると思われます。
(3)実際の選択肢
以上のように見解は分かれますが,債務者としては,この後者の見解をよりどころと
して再度破産申立をして,免責を申し立てることになると思われます。
なお,東京地方裁判所では,
①新たに清算を要する資産や負債の有無,
②当該申立ての目的,
③前件で免責許可の申立がされなかった事情等
を慎重に審理した上で,破産手続開始の可否を判断するとした運用がされています。ま
た,破産手続を開始する場合には,破産管財人による資産調査及び免責調査を行うこと
になるとされています(破産・民事再生の実務[第3版]546頁)。
このように,再度の破産手続において同時廃止は認められていないので,破産管財人
の報酬相当額が必要となる点で手続費用の負担は避けられません。この点留意が必要で
す。
6 まとめ
このように解決策はあるとしても,時間,費用,手続を二回利用しなければならないという点が債務者にとって重い負担になります。
したがって,一番の予防策は,第一の手続で注意を払って,免責の申立期間を失念しないにようにすることといえます。
何事も「転ばぬ先の杖」が大事です。倒産法の知識と実務経験の豊富な弁護士に相談するとともに,必要に応じて事件を依頼し,二人三脚で共働して取り組むことが大事ではないでしょうか。

以 上