コラム
Column
Column
同一労働同一賃金に関しては,すでにハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件という重要な最高裁判例がありますが(詳細は伊藤弁護士のコラムをご覧ください。https://www.irokawa.gr.jp/column/1152/),令和2年10月13日及び同月15日に,新たに5つの最高裁判例が出ました。
少し時間が経過しましたが,その重要性に鑑みて本コラムでご説明します。
なお,これらの判断の前提となる旧労働契約法20条及び同条を引き継いだパートタイム・有期雇用労働法8条につきましては,後編末尾に記載します。
1 大阪医科薬科大学事件(最判令2・10・13労判1229号77頁)
(1)事案
ア 概要
有期契約労働者のアルバイト職員である一審原告が,無期契約労働者である正職員
との間の労働条件の相違が旧労働契約法20条に違反するとして,不法行為に基づき,上
記相違に係る賃金相当額等の損害賠償を求めた事案です。
イ 事実
一審原告は,大学の教室事務員であるアルバイト職員で,雇用期間は1年以内,更新す
る場合があるものの上限は5年,業務内容も定型的で簡便な作業が中心であり,人事異
動も例外的かつ個別的な事情によるものに制限されていました。一方で,比較対象と
された大学の教室事務員である正職員は,これに加えて,学内の英文学術誌の編集事務
等,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試
薬の管理業務等にも従事する必要があり,人事異動を命ぜられる可能性もありまし
た。
また,一審被告では,教室事務員の業務内容の過半が定型的で簡便な作業等であった
ため,平成13年頃から,一定の場合を除きアルバイト職員に置き換え,結果,同25年から
同27年当時の教室事務員である正職員は僅か4名に減少し,業務内容の難度や責任の程
度も高く,他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていました。
さらに,アルバイト職員については,契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更する
ための試験による登用制度が設けられていました。
一審原告は,平成25年1月29日から同28年3月31日まで労働契約を締結,更新し,うち
同27年3月9日以降は適応障害により出勤していません。
ウ 論点
最高裁は,賞与,私傷病欠勤中の賃金について,以下(2)(3)の通り判示しました。
(2)賞与
ア 性質・目的
労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲向上等の趣旨を含むものと
認められ,正職員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図るなどの目的
を認定しました。
イ 職務内容,変更範囲及びその他の事情(旧労働契約法20条,パートタイム・有期雇用
労働法8条)
(ア)職務の内容
業務の内容に共通する部分はあるものの,一審原告の業務は相当に軽易であるの
に対し,正職員は,これに加えて別途の業務等にも従事する必要があり,一定の相違
があったことは否定できないとしました。
(イ)変更の範囲
正職員は,人事異動を命ぜられる可能性があるが,アルバイト職員は,人事異動は例
外的かつ個別的な事情により行われており,職務の内容及び配置の変更の範囲(以下
「変更の範囲」といいます)に一定の相違があったことも否定できないとしました。
(ウ)その他の事情
教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異
にするに至ったことについては,教室事務員の業務の内容や一審被告が行ってきた
人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえ,また,アルバイト職員に
ついては,正職員等への登用制度が設けられており,その他の事情として考慮するの
が相当であるとしました。
ウ 結論
契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと,アルバイ
ト職員である一審原告に対する年間の支給額が新規採用された正職員の基本給及び賞
与の合計額と比較し55%程度の水準にとどまることを斟酌しても,労働条件の相違が
不合理とまでは評価できないとしました。
(3)私傷病欠勤中の賃金
ア 性質・目的
正職員が長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労すること
が期待されることに照らし,正職員の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保
するという目的によるものとしました。
イ 職務の内容,変更の範囲及びその他の事情
職務の内容,変更の範囲及びその他の事情については上記(2)と同様に判断しまし
た。
ウ 結論
アルバイト職員は,長期雇用を前提としているとはいい難く,教室事務員であるアル
バイト職員は,雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当する
ものとはいえない,また,一審原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間
を含む在籍期間も3年余りにとどまり,勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい
難く,一審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったこ
とをうかがわせる事情も見当たらず,労働条件の相違が不合理であると評価すること
はできないとしました。
2 メトロコマース事件(最判令和2・10・13労判1229号90頁)
(1)事案
ア 概要
地下鉄駅構内の売店で販売業務に従事していた有期契約労働者の契約社員である一
審原告らが,同様の業務に従事していた無期契約労働者である正社員との間の労働条
件の相違が旧労働契約法20条に違反するとして,不法行為等に基づき,上記相違に係る
退職金相当額等の損害賠償等を求めた事案です。
イ 事実
一審原告は,契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した契約社員B(契約社
員Aは契約社員Bのキャリアアップの雇用形態。詳細は割愛します)で,売店業務に専
従し,業務場所の変更を命ぜられることはあっても業務内容に変更はなく,配置転換等
を命ぜられることはありませんでした。一方で,比較対象とされた売店業務に従事す
る正社員は,販売員固定の売店において不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を
行う代務業務を担当するほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等
の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネー
ジャー業務に従事することがあり,配置転換等を命ぜられる現実の可能性もありまし
た。
また,売店業務に従事する正社員と他の多数の正社員とでは,職務の内容及び変更の
範囲につき相違がありました。しかし,売店業務に従事する正社員が,関連会社等の再
編成により一審被告に雇用されることとなった者や契約社員から登用された者がほぼ
全体を占めることとなったという経緯や職務経験等から,賃金水準を変更したり,他の
部署に配置転換等したりすることが困難でした。
さらに,開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aを契
約社員Aや正社員に登用していました。
ウ 論点
最高裁は,退職金について,以下(2)の通り判示しました。
(2)退職金
ア 性質・目的
職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対
する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,正社員としての職務を遂行し得
る人材の確保やその定着を図るなどの目的を認定しました。
イ 職務の内容,変更の範囲及びその他の事情
(ア)職務の内容
業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,代務業務のほか,エリアマネージ
ャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していた
ものであり,一定の相違があったことは否定できないとしました。
(イ)変更の範囲
正社員は,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があるのに対
し,契約社員Bは,配置転換等を命ぜられることはなかったのであり,変更の範囲にも
一定の相違があったことが否定できないとしました。
(ウ)その他の事情
売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異
にしていたことについては,一審被告の組織再編等に起因する事情が存在したもの
といえ,また,一審被告は,開かれた試験による登用制度を設け,正社員等に登用して
いたものであり,その他の事情として考慮するのが相当であるとしました。
ウ 結論
契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定めら
れるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,一審原告らがいずれも
10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,労働条件の相違が不合理
であるとまでは評価できないとしました。