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第148回 同一労働同一賃金に関する最高裁判決について2 (大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件・日本郵便事件(佐賀・東京・大阪))(後半)

⇒前半からの続き

 

3 日本郵便(佐賀・東京・大阪)事件(最判令和2・10・15。佐賀は労判1229号5頁,
東京は労判1229号58頁,大阪は労判1229号67頁)

(1)事案
ア 概要
郵便業務を担当する有期契約労働者の一審原告らが,無期契約労働者である正社員
との労働条件の相違が旧労働契約法20条に違反するとして,不法行為に基づく損害賠
償請求を行った事案です。
イ 事実
佐賀事件の一審原告は,郵便外務事務(配達等の事務)に従事する時給制契約社員,
東京事件の一審原告らは,郵便外務事務または郵便内部事務(窓口業務,区分け作業等
の事務)に従事する時給制契約社員,大阪事件の一審原告らは,郵便外務事務に従事す
る時給制契約社員または月給制契約社員です。時給制契約社員の契約期間は6か月以
内で,契約を更新することができ,また月給制契約社員の契約期間は1年以内で,契約を
更新することができました。大阪事件判決によれば,本件契約社員は,特定の業務にの
み従事し,昇任や昇格は予定されていない,組織全体に対する貢献によって評価される
こと等はない,職場及び職務内容を限定して採用され,正社員のような人事異動はない,
正社員への登用制度があるといった事情がありました。
一方で,大阪事件判決によれば,比較対象とされた正社員は,郵便局における郵便業務
を担当する,旧人事制度下の旧一般職,新人事制度下の新一般職,地域基幹職です。旧一
般職・地域基幹職は業務に幅広く従事し,昇任・昇格が想定されている,新一般職は標
準的業務に従事し,昇任・昇格は予定されていない,正社員の人事評価では組織全体に
対する貢献等が評価される,正社員には配転が予定されているが,新一般職については
転居を伴わない範囲で人事異動を命ぜられる可能性があるにとどまるといった事情が
ありました。
ウ 論点
最高裁は,佐賀事件は夏期冬期休暇について,東京事件は年末年始勤務手当,病気休
暇,夏期冬期休暇について,大阪事件は年末年始勤務手当,年始期間勤務の祝日給,扶養
手当,夏期冬期休暇について,それぞれ以下(2)~(4)の通り判示しました。

(2)佐賀事件
ア 夏期冬期休暇
(ア)賃金以外の労働条件
賃金以外の労働条件の相違についても,個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべ
きものと解するとしました。
(イ)性質・目的
郵便業務を担当する正社員に夏期冬期休暇が与えられているのは,年次有給休暇
や病気休暇等とは別に,労働から離れる機会を与えることにより,心身の回復を図る
という目的によるものであると解され,夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日
数は正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていないとしました。
(ウ)労働条件の趣旨の本件契約社員への妥当性
郵便業務を担当する時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされるなど,繁忙
期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれて
いるのであって,夏期冬期休暇を与える趣旨は,上記時給制契約社員にも妥当すると
いうべきであるとしました。
(エ)結論
原審の確定した事実関係等の概要のとおり,職務の内容や当該職務の内容及び配
置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,労働条
件の相違があることは,不合理であると評価することができるとしました。
イ 夏期冬期休暇に係る損害
有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるとこ
ろ,郵便業務を担当する時給制契約社員である一審原告は,夏期冬期休暇を与えられな
かったことにより,当該所定の日数につき,本来する必要のなかった勤務をせざるを得
なかったものといえ,上記勤務による財産的損害を受けたといえるとしました。

(3)東京事件
ア 年末年始勤務手当
(ア)性質・目的
最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごす期間に,業務に従事したことに
対し,勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するもの
である,また,正社員が従事した業務の内容や難度等に関わらず,所定の期間に実際に
勤務したこと自体を支給要件とし,支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて
一律であるとしました。
(イ)労働条件の趣旨の契約社員への妥当性
これを支給することとした趣旨は,時給制契約社員にも妥当するとしました。
(ウ)結論
原審の確定した事実関係等の概要のとおり,職務の内容や当該職務の内容及び配
置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,労働条
件の相違があることは不合理であると評価できるとしました。
イ 病気休暇
(ア)賃金以外の労働条件
賃金以外の労働条件の相違についても,個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべ
きものと解するとしました。
(イ)性質・目的
私傷病により勤務することができない正社員が,長期にわたり継続して勤務する
ことが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを
通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものである,継続的な勤務が
見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは,使用
者の経営判断として尊重し得るものと解されるとしました。
(ウ)労働条件の趣旨の本件契約社員への妥当性
病気休暇を与えることは使用者の経営判断として尊重し得るが,上記目的に照ら
せば,郵便業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込ま
れるのであれば,その趣旨は妥当するとしました。
(エ)結論
時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされ,一審原告らのように有期労働契
約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれて
いるといえ,原審の確定した事実関係等の概要のとおり,職務の内容や当該職務の内
容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮して
も,労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるとしまし
た。
ウ 夏期冬期休暇に係る損害は,佐賀事件と概ね同様の判断がなされています。

(4)大阪事件
ア 年末年始勤務手当は,東京事件と概ね同様の判断がなされています。
イ 年始期間勤務の祝日給
(ア)性質・目的
年始期間の勤務に対する祝日給は,本件契約社員と異なり正社員には特別休暇が
与えられることとされているにもかかわらず,最繁忙期であるために年始期間に勤
務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをし
たものを支給することとされたものと解されるとしました。
(イ)労働条件の趣旨の本件契約社員への妥当性
本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされ,一審原告らのように
有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど,繁忙期に限定された短
期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている,そうすると,最
繁忙期における労働力の確保の観点から,本件契約社員に対して特別休暇を付与し
ないこと自体には理由があるといえるものの,年始期間における勤務の代償として
祝日給を支給する趣旨は,本件契約社員にも妥当するというべきであるとしまし
た。
(ウ)結論
原審の確定した事実関係等の概要のとおり,職務の内容や当該職務の内容及び配
置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,労働条
件の相違があることは,不合理であると評価することができるとしました。
ウ 扶養手当
(ア)性質・目的
正社員に扶養手当が支給されるのは,正社員が長期にわたり継続して勤務するこ
とが期待されることから,生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計
等を容易にさせることを通じて,継続的な雇用を確保するという目的によるものと
考えられる,継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給することは,使用者
の経営判断として尊重し得るものと解されるとしました。
(イ)労働条件の趣旨の本件契約社員への妥当性
上記目的に照らせば,本件契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続
的な勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当する
というべきであり,また,本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされ
ており,一審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存する
など,相応に継続的な勤務が見込まれているといえるとしました。
(ウ)結論
原審の確定した事実関係等の概要のとおり,職務の内容や当該職務の内容及び配
置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,労働条
件の相違があることは,不合理であると評価することができるとしました。
エ 夏期冬期休暇に係る損害は,佐賀事件,東京事件と概ね同様の判断がなされていま
す。

4 考察

(1)判断枠組み
5判例の判断枠組みは,Ⅰ.大阪医科薬科大学事件,メトロコマース事件と,Ⅱ.日本郵
便3件とに分類できますが,大きな枠組みとしてはいずれも,①労働条件の性質・目的の
判断,②旧労働契約法20条の規定する職務の内容,変更の範囲及びその他の事情の判断,
③不合理性の判断という過程で行われており,この点は共通しているものといえます。

(2)ⅠとⅡの相違点
Ⅰでは,基本給との結びつきの強い賞与・退職金等については,職能的性質,複合的性質
や人材確保・定着という目的が不合理性を否定する方向に働きました。長期雇用型制度
設計に配慮したものとも考えられます。
一方で,Ⅱでは,手当・休暇等については,性質・目的を認定しその趣旨は契約社員にも
当てはまるとして不合理性を肯定しています。賞与・退職金等と異なり,性質・目的の
位置付けが比較的容易であったことが理由として考えられます。
もっとも,賞与,退職金等か,手当・休暇等かという違いだけで不合理性の判断が分かれ
るわけではありません。前者であっても,職務能力を有した人材の確保という目的を有
していないと評価されるような場合は不合理性が肯定されることもあるでしょうし,後
者であっても,契約社員の更新が限定的で継続的な勤務が見込まれない場合で,手当・休
暇等の趣旨が契約社員に当てはまらないときは,不合理性が否定されることもあり得る
と考えられます。

(3)各論
なお,Ⅰにおいて,人材確保・定着目的を不合理性判断にあたり否定的に斟酌したり,Ⅱ
において,継続的な雇用を確保するという目的について使用者の経営判断として尊重し
得ると判断している点について,いわゆる有為人材確保論(正社員を厚遇することで有
能な人材の確保・定着を図るという考え方)を認めたようにも読むことが可能であり,
今後議論がなされることになろうかと思われます。
また,日本郵便(大阪)事件の原審(大阪高判平31・1・24労判1197号5頁)では,年
末年始勤務手当等について,通算契約期間5年超以降の労働条件の相違を不合理として
いましたが,今回の最高裁判例は5年超基準を採用しませんでした。
さらに,日本郵便(東京)事件の一審(東京地判平29・9・14労判1164号5頁)にお
いては,住居手当の損害を6割,年末年始勤務手当を8割と認定しました。このような,
いわゆる割合的認定も,今回の最高裁判例は採用していません。

(4)さいごに
5判例は事例判決であり,これらの判断内容をもって,各社の対応を具体的に基礎付け
ることは難しいように思います。今後の判例の集積が待たれます。
(参考条文)
旧労働契約法20条
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。

パートタイム・有期雇用労働法8条
事業主は,その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給,賞与その他の待遇のそれぞれについて,当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において,当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち,当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して,不合理と認められる相違を設けてはならない。

以上