コラム
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1.はじめに
令和4年5月、消費者契約を取り巻く環境の変化を踏まえつつ、消費者が安全・安心に取引できるセーフティネットを整備すること、また、消費者の被害を救済しやすく、消費者が利用しやすい制度へと進化させるとともに、制度を担う団体が活動しやすくする環境整備を行うため、消費者契約法及び消費者裁判手続特例法が改正されました。
また、令和4年12月には、霊感商法等に関する被害救済の観点から、更に消費者契約法が改正されました。
今回は、このうち令和4年5月及び12月の消費者契約法の改正を取り上げます。
2.消費者契約法の概要と問題点
消費者契約法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為について取消可能とし、また、契約条項を無効とすることで、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、平成12年5月に成立しました。消費者と事業者とが締結した契約に適用される民法の特別法となります。
その後、数次の改正を経て、平成30年改正後は、①不実告知・断定的判断の提供、不利益事実の不告知、不退去・退去妨害・不安をあおる告知・加齢等による判断力の低下の不当な利用等の不当な勧誘、過量販売が行われた場合の取消権、②事業者の損害賠償責任の免除条項のうち一定の類型、平均的損害を超える違約金条項、消費者の利益を一方的に害する条項の無効、③勧誘に際する情報提供の努力義務、を主な内容としていました。
しかし、その後、新たな消費者被害などが発生したことから、今回の改正で、①不当な勧誘による契約の取消権の対象、及び②不当な契約条項として無効とされる対象がそれぞれ拡大され、また、③事業者の情報提供の努力義務が拡充されるなどの改正が行われました。
3.①不当な勧誘による契約の取消権~契約の取消権の追加
令和4年5月改正前も、嘘の説明をされた等の不実告知、この金融商品は必ず値上がりすると説明された等の断定的判断の提供、不利益な事実の不告知、また、お願いしても帰ってくれない・高齢の親に大量の購入契約をさせるなど消費者を困惑させるといった、一定の不当な行為があった場合において、当該行為により消費者が誤認をし、それによって契約を申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことが出来るとされていました(法4条1項3項)。
もっとも、販売手法や取引環境の変化等とともに、これまでの条項では対応できなかった不当な勧誘、販売がされるようになり、そのような被害からも消費者を救済するために、新たに以下の類型について、取消しが出来るように条文化されました。
(1)勧誘をすることを告げずに、退去困難な場所へ同行し勧誘した場合
例)「景色を見に行こう」と事業者に誘われ、交通の便の悪い山奥に出かけたとこ
ろ、行った先で儲け話の勧誘を受けた
(2)威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合
例)契約するかどうか親に電話で相談して決めたいと事業者に言ったところ、「もう
大人なんだから自分で決めないとだめだ」と迫られ相談させてもらえなかった
(3)契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合
例)事業者が、不用品買取のために訪問した際に消費者が指輪やネックレスを見せた
ところ、切断しないと十分な査定ができないとして全て切断され、売らざるを得な
くなってしまった
また、令和4年12月の改正では、霊感等による告知を用いた勧誘に対する取消権(法4条3項6号)について、以下の下線部について対象が拡大されました。
これとともに、同改正で、霊感商法の取消権については、最長10年に延長することとなりました。すなわち、霊感商法以外の取消権については、(ⅰ)追認をすることができる時から1年間、又は、(ⅱ)消費者契約の締結時から5年間、のいずれか早いほうで消滅することとなっていますが、霊感商法の取消権については、(ⅰ)追認をすることができる時から3年間 、(ⅱ)契約締結時から10年間のいずれか早いほうまでは消滅しません。
なお、この令和4年12月の改正については、既に令和5年1月5日から施行されており、取消権の期間の延長の点は、現行の取消権について時効が完成していないものにも適用されることとなっています。
4.②不当な契約条項の無効~免責の範囲が不明確な条項の追加
令和4年5月改正前は、不当な条項のうち損害賠償について定めた法8条に関しては、(ⅰ)故意又は重過失による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を一部でも免除する条項、(ⅱ)債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を全部免責する条項、(ⅲ)消費者の解除権を放棄させる条項などが無効とされていました。
これに加え、令和4年5月改正では、賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項(軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないもの)は無効とされました。
例えば、「法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します。」など規定されている条項(いわゆるサルベージ条項)に関しては、「法令に反しない」かどうかが不明確となるため、改正後は無効となってしまいます。
そのため、対消費者の取引を行っている事業者は、消費者との契約・利用規約を見直し、改正後に無効となってしまう条項(特にサルベージ条項)がないかどうか、見直す必要があります。
5.③事業者の情報提供~事業者の努力義務の拡充
これまでは、勧誘に際し消費者の知識、経験を考慮した情報提供を行うことが努力義務として規定されていましたが、消費者の年齢、心身の状態も考慮事由とすることが明らかにされました。
また、解除に必要な情報提供を行うこと、解約料の算定根拠の概要等の説明を行うことも努力義務とされました。
これらの改正により、消費者が解約することができずに困るという事態が解消されたり、キャンセルの際に「平均的な損害の額」を超えているかどうかの判断、立証をし易くなることなどが期待されています。
6.まとめ
令和4年12月改正については既に施行されていますが、令和4年5月改正については令和5年6月1日に施行予定となっていますので、その前に、BtoC取引のある会社は、自社の利用規約にサルベージ条項がないかどうか、解除や解約料について説明のできる体制となっているかなど、一度見直してみることをお勧めします。
また、消費者契約法については、消費者の被害救済の観点から、今後も法改正や重要な判断がされることが想定されるため、定期的に見直していく必要があります。