コラム

Column

第14回 株主提案権について

3月期決算の会社においては今年も定時株主総会の準備に追われる時期となりました。

昨年の株主総会では,株主提案権が行使された事例が増加しました。また,例えば,野村ホールディングス株式会社において,株主から商号の「野菜ホールディングス」への変更を求める件をはじめとする100個の議案が提案され,このうち株主総会に付議するための要件を満たす18個の議案のみが取り上げられたことが明らかにされるなど,一度に多くの議案が提案される例もあったようです。
このような中で,東京高裁で株主提案権に関する注目すべき判断(東京高決平24.5.31 資料版商事法務340号30頁。以下,「本件決定」といいます)がなされましたので,ここでご紹介をしておきたいと思います。

 


事案は,株主が,株主提案権に基づき,提案議題,提出議案並びにそれらの要領及び提案理由を定時株主総会の招集通知または参考書類に記載するよう求めたにもかかわらず,会社が応じなかったため,株主がその記載を命じる仮処分の申立てを行ったというものです。株主が63個の議案を提案したところ,会社は権利濫用で不適法であるとして取り上げなかったのです。
(1)
本件決定は,まず,「株主提案権といえども,これを濫用することが許されないことは当然であって,…正当な株主提案権の行使とは認められないような目的に出たものである場合には,株主提案権の行使が権利の濫用として許されない場合がある」として,一般論として,株主提案権の行使が権利の濫用に該当する場合があることを認めました。
そして,議題・議案の提案が多数で,提案理由が長いこととの関係では,「株主提案に係る議題,議案の数や提案理由の内容,長さによっては,会社又は株主に著しい損害を与えるような権利行使として権利濫用に該当する場合があり得る」旨を指摘しつつも,①前2年の定時株主総会の際には,株主からさらに多数の議案が提出されたが,最終的に15個または20個が議案として上程されたこと,②株式取扱規則には株主提案の数や字数を制限する規定がないこと,③株主提案権の行使から会社が招集通知等の内容を確定させるまでに1か月以上の期間があったことなどを踏まえて,権利濫用該当性を否定しました。
(2)
また,取締役に関する議案の適法性に関しては,他の議案と重複する議案は不適法と判断したものの,会社提出議案に対する反対提案や当該定時株主総会の終結により任期が満了する取締役の解任議案についても,「直ちに提出の利益が否定されるものではなく,不適法であるとは認め難い」と判断しました。
さらに,定款変更議案の適法性に関しては,「明確性を欠くものや実効性に疑問があるものも存在するほか,第三者に義務を課したり,取締役等の個人的活動を制約するなど,定款としての法的効力に疑問が存するものを内容とするものもあるが,定款にどのような規定を設けるかは,基本的には株主の自治に委ねられるべきものであることを考慮すると,本件請求に係る定款一部変更議案の全てが不適法であるとまではいえない」と判断しました。
(3)
結論として,本件決定は,「本件株主提案は,一部に不適法なものがあるが,全体として権利の濫用とまではいうことはできない」としつつも,申立てが認容された場合には会社に大きな負担が生じるほか,定時株主総会が開催できないおそれがあり,一般株主に大きな不利益が生じるおそれがあること,当該定時株主総会に議案を必ず上程しなければならない緊急性または必要性が疎明されていないことなどを踏まえて,保全の必要性を否定し,株主の申立てを却下しました。

 


本件決定を踏まえて,以下の事項を指摘できると考えます。
(1)
株主から多数の議案が提案され,明らかに不適法と考えられる議案を排除してもなお,多数の議案が残る場合には,議案の内容に加えて,本件決定で言及されている「株主提案に係る議題,議案の数や提案理由の内容,長さ」を考慮しつつ,従前の対応,株式取扱規則における制限の有無,株主提案権の行使時期等も踏まえて,権利濫用に該当するかどうかを検討していくことになります。
(2)
任期満了の取締役の解任議案は,それ自体は適法なものとして取り上げる方向で検討をしていくことになりそうです。また,反対提案は,本件決定が不適法とは判断をしていないことを踏まえて対応を検討する必要があります。反対提案を議案として上程しない場合であっても,必ずしも不適法の問題を生じるものではないと考えますが,反対提案を議案として取り上げず,かつ,株主総会参考書類に反対理由を記載することもしないという取扱いの適法性については,引き続き,慎重に検討をしていく必要がありそうです。最後に,定款変更議案については,従前から,当該形式を取る議案を不適法として却下することの困難性が指摘されていたところではありますが,本件決定が内容に疑問があるものも含めて適法性を否定しなかったことを踏まえて,今後も,慎重に対応していく必要があります。
以 上