コラム
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はじめに
スカイマーク株式会社(以下「スカイマーク」といいます)について進められている再生手続について、8月5日に東京地方裁判所において債権者集会によりスカイマークと再生債権者イントレピッド・エアクラフト・リーシング・エルエルシーとアビエーション(以下「イントレピッド」といいます)が作成した各再生計画案について決議がおこなわれ、スカイマークの再生計画案が債権者の法定の多数決を得て可決され、同日裁判所の認可決定をうけました。スカイマークには、インテグラル株式会社ほか※1(投資ファンド)、USDエアライン投資事業有限責任組合(株式会社日本政策投資銀行と株式会社三井住友銀行が折半で出資するファンド)とANAホールディングス株式会社(以下これらを「ANA外」といいます)が共同スポンサーとなっていました。今後はANA外の支援による再生が進むことになります。
マスコミなどでも報道されましたが、このケースの特徴を見てみましょう。
1 このケースの特徴は
この事件は大型民事再生事件であるのみならず、航空業界では日本航空が会社更生手続を経て再上場している先例もあり世間的にその再生の行方について注目されていました。特に関心をもたれたのは、スカイマークが作成した再生計画案(以下「スカイマーク案」といいます)と大口債権者が作成した再生計画案(以下「イントレピッド案」といいます)がそれぞれ提出され、債権者の議決に付されることになった点です。
再生債務者がスポンサーによる支援を得る場合は、再生債務者において早期にスポンサーを選定し、そのスポンサーの協力の下で再生計画案を作成して、債権者集会にて、決議を得ることになります。スポンサー候補が複数ある場合でも、選定手続きを経て1社に絞られ,再生計画案はこのように選定されたスポンサーの支援を前提に再生債務者によって作成されることが通例といって良いでしょう。
2 再生債権者からの再生計画案の提出
スカイマークの場合も、スカイマークにより選定されたスポンサーであるANA外の意向を受けてスカイマークが提出期限である平成27年5月29日までに再生計画案を提出しました。
これに対して、大口債権者であるイントレピッドも再生計画案を平成27年5月29日までに作成して提出しましたが、この段階では「スポンサーは選定中」ということでした。6月10日にイントレピッドは再生計画案の修正をしました。その後デルタ航空がスポンサーとなることが明らかになりました。債権者が再生計画案を提出することは一般の民事再生事件ではあまりなく、ゴルフ場の再生事件において再生債務者の再生計画案に対抗してゴルフ会員権者が再生計画案を提出する例などがあるくらいと言われています。
スカイマークの対応ですが、イントレピッドの再生計画案についてホームページで債権者に向けて計画案の提出、修正、付議されたこと、債権者集会の結果の報告など節目節目でタイムリーにコメントしています。
たとえば、スカイマークは修正前のイントレピッド案について、「エアラインをスポンサーとする内容でありながら、選定中とのことであり、その実現可能性が示されず,弁済の源資となる金額や拠出者も定まっておらず,再生計画案が遂行される見込みは全く不明といわざるを得ません。」としていますが、このことからすれば、イントレピッド案は民事再生174条2項2号の「再生計画が遂行される見込みがない」との理由により決議に付さない決定を裁判所に求めていたのではないかと思われます。仮に再生債権者から再生計画案が提出されたとしても、裁判所により決議に付されなければ、提出がなかった場合と同様の取り扱いになりますので、スカイマークとしてはこのような主張を行うことになるわけです。この点に関し、裁判所の決議に付す前にたとえば監督委員が双方の案について債権者に対するアンケート(予備投票)を行い、多数の支持を得た再生計画案を選択して決議に付すことも考えられます。実際にも、ゴルフ場の更生事件で管財人がアンケートを行い1本化した例があるようですし、私が経験した大阪地裁のゴルフ場の会社更生事件では、管財人が提出した更生計画案の外にゴルフ会員債権者が更生計画案を提出しましたが、調査委員の調査の結果、会員債権者の更生計画案が決議に付されなかったことがありました。しかし、本件ではそのような手法はとられなかったようです。付議の前に一方の案に絞るには一定の時間がかかりますので、実際にはこのような措置を取ることは多くはないように思われます。
3 裁判所よる付議決定
裁判所は、スカイマーク案とイントレピッド案について債権者集会に決議に付すかどうか(民事再生法169条1項)を検討し、6月15日にいずれの案についても8月5日に開催される債権者集会の決議(ただし書面投票も併用する)に付すとの決定がなされました。したがって、スカイマークがイントレピッドの再生計画案について付議されないようにとの思いはかなえられなかったことになります。
4 債権者集会にむけて
債権者集会で再生計画案を可決するには、①議決権者の過半数の同意と②議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意が必要です。
スカイマークの事件では以下のとおり大口債権者が4社(グループも含め)で議決権96%を占めていました。
(1)イントレピッド系5社 38%、
(2)エアバス系3社 28.9%、
(3)ロールス・ロイス系3社 15.7%、
(4)CIT 13.4%
その他の債権者の議決権は4%にすぎなかったのです。
そこでイントレピッドとしては、上記②の要件についてはあと13%の議決権を有する者の同意が得られれば、これを満たすことになります。
これに対してスカイマークとしては、イントレピッド以外の大口債権者3者全員の、同意を取り付けることが必要となりました。
なお、新聞報道によれば※2、ロールス・ロイス系3社及びCITが前者は議決権を4等分して、後者は議決権を2分割してそれぞれ議決権を行使できるものとして通知したとされている。このことにより両社がそれぞれスカイマークの再生計画案、イントレピッド案に賛成できるようにしたものといえます。議決権の不統一行使については民事再生法172条2項に定めがありますが、今回のケースのように利用されることはこれまでの再生事件ではあまりなかったのではないでしょうか。
5 債権者集会の結果
新聞報道などによれば、スカイマークとイントレピッド双方が債権者集会までに債権者説明会や個別の折衝により債権者に対して、熱心に自己の再生計画案に賛同を求めたようです。なお、東京地裁ではスカイマーク案とイントレピッド案のどちらかを債権者に選択させる方法によって議決をとる方式が採用されていると言われております。この場合、債権者としては、「スカイマーク案に賛成」「イントレピッド案に賛成」「いずれにも反対」のいずれかを選ぶことになります。
債権者集会の議決の結果は以下のとおりとなり、スカイマーク案が可決され、イントレピッド案は否決されました。
(1) スカイマーク案
上記4①の要件(頭数)174名中135名と2分の1名の賛成
上記4②の要件(議決権額) 60.25%の賛成
(2)イントレピッド案
上記4①の要件(頭数)174名中37名と2分の1名の賛成
上記4②の要件(議決権額) 38.13%の賛成
結果としては、スカイマークによる再生計画案はイントレピッド以外の圧倒的な多数の債権者に支持されたといえます。再生手続の流れからしてもスカイマーク案が支持され、対抗案としてのイントレピッド案が否決されたというのは望ましいといえるのではないでしょうか。ただ、このようなケースで債権者から再生計画案が提出された事例として貴重な参考になるように思われます。
もし、上記4①②の要件が満たされずに再生計画案が否決されたときは、スカイマークにおいて期日の続行を求め2箇月以内に債権者集会を開催することになったであろうと思われますが、これは回避されました。再生による支援はスピードが命ということができますので、この点は良かったのではないでしょうか。
※1 インテグラル株式会社,インテグラル2号投資事業有限責任組合及びIntegral Fund Ⅱ(A)L.P
※2 日本経済新聞平成27年7月24日