コラム

Column

第21回 さまざまな終末期の状況で、あなたはどのような治療を希望しますか?

「末期がんで、食事や呼吸が不自由であるが、痛みはなく、意識や判断力は健康なときと同様に保たれている場合」に、どのような治療を受けたいと希望しますか。

このような問いに、どうお答えになるでしょうか。

 

6月27日の厚生労働省の「終末期医療に関する意識調査等検討会」で報告された国民の意識調査結果(回収数2,179)によれば、このような問いに対し、水が飲めない場合の点滴を「望む」は61%、肺炎の場合の抗生剤投与を「望む」は58%と半数を超えているのに対して、手術で胃に穴を空けて管から流動食を入れる「胃ろう」を「望む」は8%、人工呼吸器を「望む」は11%と低い割合にとどまっていました。

 

「認知症が進行し、身の回りの手助けが必要で、かなり衰弱がすすんできた場合」にどのような治療を希望するかとの質問に関する回答も同様の傾向であり、さまざまな治療を「望まない」割合がさらに高くなっています。治療を「望む」のは「胃ろう」が6%、人工呼吸器が9%であり、点滴は47%、抗生剤投与は45%といずれも半数以下でした。

あなたの治療に関するご希望はいかがでしょうか。

 

終末期における医療のあり方に関しては、誰もが自分自身あるいは家族の問題として遅かれ早かれ直面せざるを得ない問題です。

では、あなたは、自分で判断できなくなった場合に備えて、どのような治療を受けたいか、あるいは受けたくないかなどを記載した書面(事前指示書)を作成していますか。

厚労省の調査結果によれば、実際に事前指示書を作成している人は一般国民で3%、医師で5%でした。事前指示書をあらかじめ作成しておくことへの賛否は、一般国民で70%、医師で73%が「賛成する」と回答しているのですが、実際に実行に移している人は、医療の専門家でさえごく僅かにとどまっているのが現状のようです。

 

終末期の医療をめぐって、世間の注目を集めた事件としては、東海大学医学部付属病院、川崎協同病院、射水市民病院の事案などがあります。

東海大学医学部付属病院の事案は、多発性骨髄腫で入院中の58歳の患者に家族からの強い要請を受けて塩化カリウム製剤等を投与して急性高カリウム血症にもとづく心停止により死亡させたという経過であり、積極的安楽死の許容要件が論点の一つとなりましたが、その要件を充たしていないとして、殺人罪で医師が有罪判決を受けたものです(横浜地裁平成7年3月28日判決)。

 

川崎協同病院の事案は、気管支喘息の重積発作により心肺停止状態で入院し昏睡状態にあった58歳の患者に、家族の要請を受けて気管内チューブを抜管し、さらに筋弛緩剤を静脈注射して心停止により死亡させたという経過です。気管内チューブの抜管が法律上許容される治療中止に当たるかどうかが論点の一つとなりましたが、裁判所は、家族からの抜管の要請は患者の病状等について適切な情報が伝えられた上でなされたものではなく、患者の推定的意思に基づくということもできないとして、殺人罪で有罪としたものです(最高裁平成21年12月7日決定)。

 

射水市民病院の事案は、平成18年3月に報道され、延命治療の中止のあり方をめぐって強い関心を集めることになったものですが、医師が入院患者の人工呼吸器を取り外した延命措置中止について、殺人容疑で書類送検されたが、検察庁で不起訴処分となったというものです。読売新聞の報道によれば、人工呼吸器の装着から取り外しまでの一連の行為は延命措置とその中止であり、取り外しと死亡との因果関係も認められないとの検察庁の判断だったようです。

 

終末期医療のあり方をめぐっては、学会などから種々のガイドラインが示されるに至っていますが、冒頭で紹介した検討会では、意識調査の結果を踏まえて、望ましい終末期医療のあり方に関する課題を検討整理する予定とのことであり、その報告が注目されるところです。

以上