コラム

Column

第32回 会社法改正と平成26年株主総会における実務対応について

1.
平成25年11月29日,「会社法の一部を改正する法律案」及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」が閣議決定され,同日,国会に提出されました。同年12月8日の臨時国会の会期末までには可決に至りませんでしたが,平成26年の通常国会で成立する見込みです。

今般の改正法案の内容は,平成24年9月の法制審議会総会で決定された「会社法制の見直しに関する要綱」の内容に概ね沿ったものですが,法案化の過程で,自民党法務部会における議論を経るなどして,修正が加えられた箇所もあったようです。
改正法は“公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日”から施行するものとされているため(改正法案附則1条。なお,施行日は,平成27年4月1日が有力な選択肢の1つとされているようです),施行までにいま少し時間がありますが,本コラムでは,改正法案の内容を踏まえて平成26年の株主総会で対応すべき事項や要綱と改正法案との主要な相違点について記載したいと思います。
2.
まず,社外取締役の選任義務付けに関しては,要綱と同様,改正法案においても見送られることとなりました。
もっとも,要綱では,有価証券報告書の提出義務を負う公開大会社たる監査役会設置会社(以下,「対象会社」といいます)に社外取締役がいない場合,「社外取締役を置くことが相当でない理由」(以下,「本理由」といいます)を事業報告に記載することとされていたところ,改正法案では,対象会社が社外取締役を置いていない場合,本理由を定時株主総会で説明しなければならないこととされました(改正法案327条の2)。
また,改正法案の可決後に改めて公表される法務省令案の内容は現時点では明らかではないものの,本理由を事業報告に記載すべきことは,そのまま法務省令案の内容として残ることが予定されているほか,社外取締役を置いていないにもかかわらず社外取締役の候補者を含まない取締役選任議案を株主総会に提出する場合,株主総会参考書類に本理由を記載すること,また,事業報告や株主総会参考書類に本理由を記載する場合には個々の会社の事情に応じて記載する(言い換えれば,雛形通りの記載では足りない)ことなど,事業報告や株主総会参考書類の記載内容に関して詳細な規定を置くことが検討されているようです。
株主総会参考書類で本理由の記載を求められることにより,例えば,事実と異なる理由を記載した場合などに取締役選任議案の決議取消事由を生じる可能性があるため,法務省令案の内容を含めて今後の改正に関する動向を注視していく必要がありますが,いずれにしても,改正法の施行後に一定の内容の説明が義務付けられた場合であっても一貫した説明を行うことができるよう,平成26年の株主総会では,社外取締役がいない理由の説明を求められた場合に,いかなる範囲で,いかなる内容の回答を行うか(例えば,改正法の施行後に求められる水準と比較して現時点でどの程度までの回答を行うか,あるいは,複数の理由がある場合にいずれの理由を述べるかなど)を十分に検討しておく必要があります。
3.
社外役員の関係では,改正法案で社外性の認められる要件も変更されています(改正法案2条15号,16号)。改正法案の内容として,親会社の関係者でないことが社外要件に追加されたことにより,親会社と子会社の双方で社外役員として兼務することができなくなったこと,会社の業務執行者の関係者でないことが社外要件に追加されたこと,10年以上の期間に亘って会社から離れていた場合に社外性を回復することなどを指摘することができますが,改正法案の内容と要綱の内容に特に相違はありません。
また,経過措置として,上記の社外性の要件の変更にもかかわらず,従前からの社外役員は,改正法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは社外性を喪失しない旨が定められることとなりました(改正法案附則4条)。
もっとも,経過措置が設けられたとはいえ,平成26年の株主総会で選任された社外役員が改正法の施行によって任期途中で社外性の要件を喪失する事態も想定されますので,平成26年の株主総会では,社外役員の選任を検討するにあたり,改正法案に定められた社外要件の内容を踏まえて適切な社外役員を選任するとともに,将来的な監査等委員会設置会社(改正法案2条11号の2)への移行も含めて,改正法の施行後も見据えた社外役員の確保のための方策を検討しておく必要があります。
なお,東証では,改正法案の閣議決定にあわせて,平成25年11月29日に,独立性の高い社外取締役の確保に関する努力義務を平成26年2月より課す予定である旨を公表しており,この点にも留意が必要です。
4.
そのほか,要綱と改正法案との主要な相違点として,要綱では,一定の金商法上の規制に違反した株主に対して,違反事実が重大であるときは,他の株主が違反により取得した株式の議決権行使の差止請求をなしうるものとされていましたが,改正法案では当該規定の採用が見送られたことを挙げることができます。これは,法制上,金商法上の規制違反と会社法上の議決権行使の禁止が結び付きにくいことを踏まえたものだと言われています。
この点,いわゆる委任状勧誘規制(金商法の前身である証券取引法の規定の委任を受けて定められた上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令の規定)は,株主総会の「決議」の「方法」を規定する「法令」(旧商法247条1号1項・現会社法831条1項1号)に該当せず,その違反は株主総会決議の取消事由たる「法令」(同)違反に該当しない旨を判示した裁判例(東京地判平17.7.7 判時1915号150頁)がありますが,当該裁判例の考え方からは,要綱で規定されていた一定の金商法上の規制違反があり,株主総会で違反により取得された株式の議決権行使がなされた場合であっても,「法令」(会社法831条1項1号)違反には該当せず,当然に株主総会の決議取消事由を生じるものではないと解されます。

以 上