コラム

Column

第33回 法律からみる食材偽装問題

1.

昨年10月下旬,有名ホテルグループのレストランで,「鮮魚」と表示しながら冷凍保存の魚を使用するなど,メニュー表示と異なる食材を使った料理を提供していたというニュースが流れました。これを皮切りに,日本各地のホテルや百貨店,飲食店300カ所以上で,食材や産地について虚偽の表示がされていたことが明らかになりました※1,2。

その一例を挙げると,

・芝海老と表示し,バナメイエビを使用※3

・ビーフステーキ※4と表示し,牛肉ではなく牛脂を注入した加工肉を使用

・フレッシュジュースと表示し,既製品のジュースを使用

・北海道産ボタンエビと表示し,カナダ産のエビを使用

・大和肉鶏※5と表示し,ブラジル産の鶏肉を使用

・和牛と表示し,豪州産の成型肉を使用

・「朝摘み有機野菜のサラダ」と表示し,当日の朝収穫したものではない野菜を使用

など,バリエーションに富んでいましたが,いずれも高級食材と称して安い食材を使っていたというのが実情のようです。

 

2.

このような食品に関する虚偽の表示は消費者の信用を害するものであり,一般的な感覚として許されるものではないことは明らかですが,法令上はどのような問題があるのでしょうか。

まず,今回問題となったような外食業については,主に不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます)の規制を受けます※6。具体的には,商品の品質等について,一般消費者に対し,実際のものよりも著しく優良であると示すなどした表示で,不当に顧客を誘引し,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるような表示をしてはならないとされ(景品表示法4条1項各号),これに違反した場合,内閣総理大臣(実際には消費者庁長官)は,当該事業者に措置命令を出すことができます※7。

以上が,行政による主な取り締まりですが,正直なところ,食材偽装と言いつつ表示よりも安い食材を食べさせられた消費者としては,「詐欺だ!お金を返してくれ!」と言いたいのではないでしょうか。

この点については,民法上,詐欺による意思表示は取り消すことができるという規定があり(民法96条1項),人を欺罔して錯誤に陥らせ,錯誤に基づく意思表示を行った場合に取り消すことができます。もっとも,ある民法の基本書でも「ある種のまやかしは商取引につきものであり,その全てが詐欺になるわけではない」とされており※8,今回の問題に関しては,例えば芝海老だと信じたためエビチリを頼んだという因果関係を立証するのは難しそうに思われます。

また,刑法上詐欺罪に該当すれば,10年以下の懲役に処せられる可能性があります。もっとも,民法上の詐欺の場合以上に因果関係や故意(欺罔によって利益を得ようとする意思)の立証は困難と考えられます。さらに,実際に食材を変えた現場の料理人に罪を問うても解決にならないと思われますし,経営陣等を共犯に問うことは難しいでしょう。

 

3.

今回の問題については,平成25年10月に問題が大きくなる前に発表した会社などでは,当初「偽装でなく,誤表示だった。」と釈明していたものの,その後「利用客に偽装と受け止められても仕方がない。」と述べ,社長が辞任する事態に陥ったところもありました。そこまで至らなくても,上記虚偽の表示による報道が過熱して以降,飲食店ではメニューの表示を書き換えたりしているようです。

なお,大きく取り上げられた会社の中には利用者に対し代金を払い戻すとの対応をしている会社もあり,1ヶ月で3000万円以上の返金を行った会社もあるということです※9。

また,景品表示法に基づいて,消費者庁が立ち入り検査を行い,措置命令などの処分を視野に裏付け調査を進め,平成25年12月19日に,3社に対して景品表示法違反(優良誤認等)にあたるとして,再発防止を求める措置命令を出しました。

 

4.

今回の問題に限らず,以前から賞味期限の改ざんや産地の偽装などは繰り返されてきました。改ざんや偽装の実行は容易であり,消費者の食品に関する知識レベルに照らしても改ざんや偽装が判明する可能性が決して高いとはいえない一方で,改ざんや偽装により企業は多くの利益を得ることができるためと考えられます。しかし,今回は有名ホテルやレストランなど高い品質やサービスを売りにしている場所での問題であり,信用・ブランドの失墜という法律やお金でははかれない損害が生じました。食材の使いまわしが露見して廃業に追い込まれた高級料亭についても記憶に新しいところです。消費者にはわからないと高をくくるのではなく,消費者の信頼に応えたサービスの提供をお願いしたいと思います。

食といえば,昨年は,和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも話題となりました。日本人として,日本の信用・ブランドについては,おもてなしの心とともに大切にしていきたいものです。

 

 


※1各ホテルが調査を始めた発端は,平成25年6月に明らかになった有名ホテルでの偽装表示(チリ産の輸入牛肉を国内産牛肉と表示)だそうです。

※2平成25年12月9日時点で,23団体307業者に及ぶそうです(同日付日経新聞)。

※3中華料理の業界では,小さなエビの俗称としてシバエビと呼ぶのが慣習だったという報道もありました(平成25年11月3日付日経新聞)。

※4消費者庁では,「この(註:ステーキという)表示に接した一般消費者は,『生鮮食品』の『肉類』に該当する『一枚の牛肉の切り身』を焼いた料理と認識します。」としています(消費者庁HP,表示に関するQ&A)。現に,過去,実際は成型肉を用いた「ステーキ」という表示に対し,あたかも牛の正肉(生肉の切り身)であるかのような表示だとして,排除措置命令が出された事例がありました(平成17年,平成19年。消費者庁HP)。

※5大和肉鶏は地鶏の一種とされていたようですが,地鶏については,「地鶏肉の日本農林規格」(平成11年農林水産省告示第844号)において,① 指定された在来種由来の血液百分率が50パーセント以上,② ふ化日からの飼育期間が80日以上,③ 28日齢以降は平飼いでかつ1平方メートル当たり10羽以下で飼育されたもの,という方法で飼育された鶏と定義されています。

※6これに対し,小売業は農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(いわゆるJAS法)の規制も受けるので,食肉の産地や種別を偽ったり,加工食品などに「生,フレッシュその他新鮮であることを示す用語」を表示したりすることなどが禁止されます。そして,「食品表示Gメン」と呼ばれる農林水産省の専門家が,不適正な食品表示の調査・指導を行っています。

※7今回の問題を受け,都道府県にも措置命令の処分権限を付与する,農林水産省などにも調査権限を持たせる,課徴金制度を導入するなど,景品表示法の改正が検討されています。また,消費者庁は,メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方を整理し,事業者の予見可能性を高めること等を目的として,「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(案)」を作成・公表することとしています。

※8内田貴「民法Ⅰ(第4版)」77頁

※92013年11月26日付日経新聞