コラム
Column
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多くの上場企業が株主総会を迎える6月が近づいてきました。この時期、総会担当者の方々は、準備に追われる忙しい日々を過ごされていることと思います。
総会の準備の中で、株主から最も問い合わせの電話を受けるのは、当日配られるお土産についてだと聞いたことがあります。自社製品を総会のお土産にできる会社ではあまり苦労はないかもしれませんが、そうではない会社にとっては、値段が適当で、持ち帰るのに負担にならず、万人受けするものを毎年考えるのは大変で、お土産選定は意外と頭を悩ませる問題だそうです。
インターネット上では、どの会社の総会でどんなお土産が出されたかという情報があふれていますし、総会集中日には、小さなキャリー付きのバックなどを持参して総会を巡る株主もおられるようで、持株数に関係なく入手できるお土産は、多くの個人投資家にとって関心事の一つになっていることは間違いありません。総会屋対策が不要となり、会社も総会をIRの場として捉えるようになってきた近年では、お土産は出席者を増やし、総会をIRの場として成功させるための重要なツールの一つとなっています。
ところが、ここ数年、この総会でのお土産を廃止する会社が目立っています[1]。各社様々な事情があることと思いますが、廃止の理由について、ソニー株式会社では、株主総会全体の運営コスト削減や、会場に来ていない株主との不公平感を解消するためと説明しているようです[2]。
この傾向が継続するのかどうかはまだわかりませんが、会社に求められるIRの方法も時代によって変わっていくのかもしれません。
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今年の6月1日から、上場規則の改正により、我が国取引所に上場する会社にはコーポレートガバナンス・コード(コード)が適用されることになりました[3]。今年の総会準備においては、このコード対応が大きな課題の一つとなっています。
ご承知のとおり、コード(原案)は「『日本再興戦略』改訂2014」に基づき、我が国の成長戦略の一環として策定されたもので、基本原則の一つとして「株主の権利・平等性の確保」(基本原則1)を挙げ、「上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。」(原則1-2)との規定を設けています。
加えて、注目すべきは、コードが「株主との対話」も基本原則の一つとして挙げ、「上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。」(基本原則5)との規定を設けていることです。上場企業は、株主との対話の前提として、様々なツールによる、今まで以上に踏み込んだ内容についてのIRが求められることになるのではないでしょうか[4]。
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もっとも、コードはかなり短期間で検討が進められ導入されたこと、会社がとるべき行動について詳細に規定する細則主義ではなく、各社が自ら置かれている状況に応じて工夫すべきという我が国では馴染みの薄い原則主義をとっていることなどもあって、会社は具体的にどの範囲でどこまでのことをすればよいのか、対応に戸惑っているというのが現実のようです。
コードはイギリス、フランス、ドイツをはじめ多数の諸外国においても採用されているものであり、グローバル経済の時代において、日本企業が「稼ぐ力」を高め、海外の投資家の評価を得るためには、規定は必要なのでしょう。
ただ、主に海外の投資家を意識して策定されたことも影響しているのか、会社が対応に相当な時間と労力をかけることになるコードが、上場企業の株主数の多数を占める日本の個人投資家にどのように理解され、評価されているのかという点には、あまり関心が払われていないように思います。
日本の個人投資家にとって、どのような株主対応を行う会社が魅力的に映るのか、株主の中に海外投資家が見当たらないような上場企業は、現時点でコードにどのような意味を見いだせるのか、はたして日本の上場企業における株主と会社との理想的な関係とはどのような関係なのか・・・色々と考えさせられる総会シーズンになりそうです。
[1]イオン株式会社(平成25年5月総会より。同社第90期定時株主総会招集通知)、株式会社吉野家ホールディングス(平成26年6月総会より。同社第57期定時株主総会招集通知)、ソニー株式会社(平成26年6月総会より。同社第97回定時株主総会招集通知)、丸三証券株式会社(平成27年6月総会より。同社第95期中間報告書)等。その他、インターネット上では、大手外食産業や私鉄等、様々な会社のお土産がなくなったとの記載がみられます。
[2]平成26年6月19日付日本経済新聞。なお、同記事によりますと、ソニー株式会社では、お土産を廃止した平成26年度の総会の出席者は半減したそうです。お土産を廃止した会社の総会出席者は大幅に減少する傾向がうかがえますが、株主総会の目的に照らし、この傾向は少し残念に思います。
[3]コード原案では、「本則市場(市場第一部及び市場第二部)以外の市場に上場する会社に対する本コード(原案)の適用に当たっては、例えば体制整備や開示などに係る項目の適用について、こうした会社の規模・特性等を踏まえた一定の考慮が必要となる可能性があり得る」としています(経緯及び背景13項)。
[4]一方で、金融庁は、平成26年2月に、「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」を策定・公表しており、株主(機関投資家)に対しては、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行うことが求められています。