コラム
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デフレからの脱却を目指す政府の方針のもと、2024年は定期調査が前年より拡大して実施さ
れた他、中小企業の取引環境の整備のため、割引困難な手形等に関する指導基準の変更、買い
たたきに関する下請法の運用基準の改正等が進められました。
まず、2024年4月30日には、「手形が下請代金の支払い手段として用いられる場合の指導基
準の変更について[i]」が発出されました。
下請法上、手形等での支払については、割引困難な手形等での支払が禁止されているところ
(下請法第2条第2号)、従来、公取委及び中企庁は、繊維業は90日、その他の業種については
120日を指導基準として、それを超える長期のサイトの手形等を割り引き困難な手形等として
指導していました。しかし、当該期間内のサイトであっても手形等が下請事業者の資金繰りの
負担となっていること等から、令和3年3月に、概ね3年以内を目途として、指導基準を業種を
問わず60日に変更することを公表していました。
これを踏まえ改めて検討のうえ発出されたのが上記であり、具体的には、割引困難な手形等
の指導基準について業種を問わず60日とすること、2024年11月1日以降施行することが明らか
にされました。
なお、定期調査の結果、60日を超えるサイトの手形等で支払っており短縮する予定がないと
した親事業者に対しては、2024年9月27日付けで注意喚起文書が発出されています[ii]。
次に、2024年5月27日には、下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準が改正され、親事
業者の禁止行為の一つである買いたたき、すなわち「下請事業者の給付の内容と同種又は類似
の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
(下請法第4条第1項第5号)の運用基準が変更されました[iii]。
従来、市場価格等がないなどして通常の対価の把握が困難な場合については、「例えば、当
該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算され
た対価を通常の対価として取り扱う」とされていました。しかしこれでは、原材料価格、エネ
ルギーコストや労務費等の上昇には十分対応できず下請事業者の利益を損ない経営を圧迫して
いるとの指摘などがあったため、次の①だけでなく②のように据え置いた場合も「通常支払わ
れる対価に比し著しく低い下請代金の額」にあたりうる例として取り扱うよう改正されまし
た。
① 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額
② 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇
を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉 の妥結額やその上昇率などの経済の実態が
反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれ
た下請代金の額。
買いたたきに該当するか否かについて、「下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な
協議が行われたかどうか等対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価
と当該給付に支払われる対価との乖離状況及び当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案
して総合的に判断する。」との判断枠組みには変更はありませんが、従来の価格を据え置くこ
とが結果として買いたたきと評価される可能性が高まったと考えられるため、親事業者にとっ
ては今後の価格交渉には十分留意が必要です。
更に、2024年7月以降、適切な価格転嫁を定着させていくための取り引き環境を整備する観
点から優越的地位の濫用規制の在り方について下請法を中心に、各分野の専門家等が検討する
ことを目的として、企業取引研究会が開催されてきましたが、12月17日の会議で報告書案が提
出され、会議での議論を踏まえ報告書が作成されました[iv]。その報告書の中で、各種問題点
に関する下請法の見直しによる解決の方向性について、大要、以下のような言及がありまし
た。
① 適切な価格転嫁の環境整備に関する論点(買いたたき規制の在り方)
適正価格(フェアプライス)の実現のため実効的な価格交渉が行われることが必要であ
り、買いたたきとは別途、実効的な価格交渉が確保されるような取引環境を整備する観点
から、例えば、給付に関する費用の変動等が生じた場合において、下請事業者からの価格
協議の申出に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的
に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を規制する必要がある。
② 下請代金等の支払条件に関する論点
紙の有価証券である手形については、下請法の代金の支払手段として使用することを認
めない。
その他金銭以外の支払手段(電子記録債権、ファクタリング等)については、支払期日
までに下請代金の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めない。
③ 物流に関する商慣習の問題に関する論点
発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引の類型を新たに下請法の対象取引
としていくこととすべきである。
なお、着荷主と運送事業者間のように直接の取引関係にない事業者間の課題についても、
改正貨物自動車運送事業法の書面交付義務の枠組み等を通じ、着荷主-発荷主間、発荷主-
元請運送事業者間、元請運送事業者-実運送事業者間において、荷待ちや附帯業務が生じた
場合の費用の負担等について取り決め、適正な契約が結ばれるよう事業者への働きかけを行
っていく必要がある。
④ 執行に係る省庁間の連携の在り方に関する論点
事業所管省庁は中小企業庁の措置請求のための調査権限を有しているが、それに加えて下
請法上問題のある行為について指導する権限を規定することが有益である。
あわせて、下請事業者が申告しやすい環境を確保すべく、報復措置の禁止の申告先とし
て、現行の公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣を追加する
ことが必要である。
⑤ 下請法の適用基準に関する論点(下請法逃れへの対応)
現行の資本金基準に加えて、従業員基準により事業者の範囲を画していくことが適切であ
る。具体的には、従業員数 300 人(製造委託等)又は 100 人(役務提供委託等)の基準を
軸に検討することが適当である。
⑥ 「下請」という用語に関する論点
取引適正化に向けた国民の意識改革をより一層推進させることも企図して、「下請」とい
う用語を時代の情勢変化に沿った用語に改める必要がある。
⑦ その他の課題
金型以外の型等、遅延利息、違反行為後の勧告、書面交付等に係る規定の整備についても
言及されています。
この報告書については2024年12月25日に意見募集がされています[v]。その結果も踏まえ、
下請法の改正案が作成されるものと考えられます。
2024年も中小企業の取引環境の整備のためいくつかの運用変更等がされてきましたが、
2025年には、約20年来の下請法の大改正がされることが予想されます(上記4⑥のとおり下請
法の名称自体も変わる可能性があります)。特に発注者側の企業には影響が大きいため、今後
も議論の動向には十分な注視が必要です。
[i] https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/apr/240430_tegata.html
[ii] https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/oct/241001_tegata.html
[iii] https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/may/240527_unyou.html
[iv] https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/dec/241225_kigyotorihiki_1.pdf
[v] 執筆現在、2025年1月23日18時まで。https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/dec/1225_kigyotorihiki_repot.html