コラム

Column

第167回 AIはうそをつく

 久しぶりにコラムを書けないかという話がありました。さすがにもう書くネタがないなあと
 思いながら、ふと、そうだ(こっそり)最近流行りのAIに任せてみようと思いついたのです。
  さっそく、「最近の企業法務に関係することを題材として、2000字から3000字程度
 の法律コラムを作成してください」と指示すると、見る見る文章が出来上がっていきます。な
 かなか見ものです。

 出来上がった文章の内容はいくつかの最近のトピックについて簡単なコメントが入るという
 もの。全部を引用するのはどうかと思うので、取り上げられているトピックだけ抜き出すと次
 のようなものです。
  ① デジタルプラットフォーム規制の強化
  ② ESG関連法規制の拡充
  ③ 個人情報保護とデータガバナンスの強化
  ④ 労働法改正と働き方改革
  どれも先端的というか、(特にESGなんかは)私には胡散臭くて、いけ好かないので却下
 ですし、個人情報保護は、EUの規制がどうこうといった私には検証をする能力がありませ
 ん。

 次に、「もう少し伝統的な問題点を扱う内容にはできないのか」という指示を出すと、また
 見る見る文書が出来上がります。取り上げられているトピックは次のようなものでした。
  ① 契約管理の重要性と課題
  ② コンプライアンスと内部統制
  ③ 労働問題と働き方改革
  ④ 知的財産の保護と戦略的活用
  ⑤ M&Aと企業再編の法的課題
  なんかありきたりでコメントも通り一遍です。

 「M&Aと企業再編の法的課題」という項目に、「デューデリジェンスの徹底」ということが記
 載されていたので、逆張りで「M&Aのデューデリジェンスが役に立たないという観点に焦点を
 置くコラムはどうか」という指示を出してみました。そうすると、「デューデリジェンスの限
 界」とか「デューデリジェンスに代わる新たな視点」といった、前者はともかく、後者はなか
 なか面白そうなことを書いてきました。ただ、「役に立たない」ということで書いてくれとい
 った割にはその観点があまりないものでした。

 そこで、もっと具体的な問題で指示を出さないといけないかと考えました。そういえば、と
 思いついたのが、最近苦労した、利息や遅延損害金の計算で暦に従って計算すると、うるう年
 の関係で面倒な計算をしなければならないことについて何か書いてもらおうと思いました。そ
 こで、「遅延損害金の算定が難しいという観点で書けないか」と指示してみましたが、利率に
 ついて旧商事法定利率6%を使ったり、うるう年を全然考慮していない、何かわけのわからな
 いことを回答してきます。これについては、数字ばっかりであまり面白くないかもしれません
 が、次のコラムで「私が」書こうということにしてあきらめました。

 で、次に、思いついたのが、物品の代金の支払請求で、その消費税相当額に遅延損害金を取
 れるのかということです。マニアックな話ですが、以前に問題になったことがあって、私は、
 特約でもない限り、取れないわけがないと思っていました。しかし、そうではないと考える人
 もいるのです。理由は、消費税は預かっているだけだからということのようです。そこで、
 「物品代金の消費税相当額分に対しても遅延損害金を請求できるのか」という質問をしてみま
 した。
  そうすると、なんと最高裁の判例があるというではないですか。その判例について調べたか
 ったので、いつの判例かと尋ねると、平成13年11月22日と答えてきます。最高裁民事判
 例集でその日の判例を探してもそれらしいものはありません。そこで、どの判例集に掲載され
 ているのかと尋ねると「最高裁判所民事判例集第55巻6号1056頁」だと具体的に回答し
 てきます。しかし、調べてみるとその判例は集合債権譲渡担保契約の債権譲渡の第三者対抗要
 件に関するものであって、重要ではありますが、消費税や遅延損害金の計算に関する判断を示
 したものではありません(最高裁判所民事判例集には1審や2審の判決も掲載されているの
 で、念のためそれも確認しましたが、かすりもしません。)。そこで、それで本当に間違いな
 いのかと再度尋ねると、「再確認したところ、私の前の回答は誤りでした。申し訳ありませ
 ん」との回答が返ってきました。併せて「別の裁判例を調査する必要があります」というの
 で、別の判例はないのかと尋ねると「具体的な判例は見当たりません」とのこと。その後も
 「一般的な解釈」だというので、その根拠を尋ねたりしていると、最後には「個別のケースに
 ついては、法律や税務の専門家に相談されることをお勧めします」ということになったので、
 それ以上の追及はやめました。

 それらしい内容の数千字の文章をあっという間に作成するAIの能力は驚くべきものですが、
 やはり細かな詰めはまだ甘いというように感じます。しかも、平然と嘘を吐きます。これは以
 前から試していて感じていました。どんどん追及していくと、正直に間違っていましたと謝る
 ところはかわいいのですが、ちゃんと検証しないととても外には出せるものではありません。
 (無料のものを使っているからだと言われればそのとおりですけど。)

 まあ、AIにコラムを作ってもらっても、そのまま掲載するのは、やはり良心の呵責を感じま
 すし、本当は著作権などのことをもう少し検討しなければならないのかもしれません(この辺
 りはまた別のコラムのネタになりそうですが。)。
  しかし、これはこれで、コラムが1本出来上がったのだから良しとしなければならないので
 しょう。

 以上